しかけ絵本のアトリエ

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1人の人に積み重なる時間―小泉吉宏の絵本『戦争で死んだ兵士のこと』

「日常」を突然失った人たちがいることに思いを致す今日という日。11年経ってもなお深い傷を抱えている姿を、決して戻らないものがあることを、私たちはずっと見聞きして知っているのに。

近くの国では現在進行形で「日常」が奪われ、壊され続けている。それも人為的に。
それに対して、自分はどうしたらいいのだろう。

 

この絵本のことを思い出しました。

小泉吉宏『戦争で死んだ兵士のこと』

戦争で死んだ兵士のこと

※画像はamazonへのリンクです

とてもシンプルな絵と文の、短い絵本です。

「これはせんそうのはなしではありません。大切な人に、大切な自分に贈りたい大人の絵本
購入当時、本の帯にはこう書かれていました。
たしかに、これは1人1人の人生の尊さを静かに浮かび上がらせる本。戦争の話と限定するような本ではないのかもしれません。
だけど、戦争が起こっている今読むと、やはり強く響くものがあります。

今はのどかな森の中の湖のほとり、

ひとりの兵士が死んでいる。

1時間前、兵士は生きていて闘っていた。

2時間前、兵士はひとり道に迷っていた。

4時間前は、戦火に巻きこまれた子どもを助けていた。

・・・

時間を遡りながら、事実を淡々と述べていくだけの文章。モノクロのあっさりした絵が添えられています。
最後のページにたどり着き、1人の人に積み重なった時間をみつめるとき、「ひとりの兵士が死んでいる。」ことの重さが胸に迫ってきます。


残念ながら、この本は現在新品では入手困難なようです。

1997年ベネッセコーポレーション刊が初出で(私が持っているのはこちらで、上の画像とは表紙のデザインが違います)、2001年にメディアファクトリーから加筆の上復刊したとのことですが(私は未確認ですが、英訳が併記されているよう)、それも絶版になってしまったようです。
だけど今こそ、読まれるべき本なのではないかと思います。できればたくさんの方に読んでいただきたい。
たまたまこの記事を読んでくださった方、もしお近くの図書館に置いてあるならば、ぜひお手にとってみてください。