新潟市の万代島美術館で開催の『和田誠展』、会期ぎりぎりに行ってきました。
和田誠展:圧倒される仕事量と「面白がる」才能
和田誠さんといえば、ポスターに装丁、雑誌のカットなど、日常のあちこちで作品をみかける、誰にとっても親しみのある作家だと思います。
とはいえ、今回の展示でずらっと作品が並んでいるのを見ると、その量!質!多彩さ!改めて圧倒されました。
私は「イラストレーター」という認識だったのですが、映画監督や翻訳、漫画など、知らなかった仕事もたくさんありました。
展示室の最初の方に22本の「年表の柱」がずらっと並んでいて、柱の各面を使い約1年ごとに作品を辿る趣向がありました。
それを追っていくのが楽しかった!4歳の頃のかわいい絵日記、中学生の頃の漫画、ほぼ落書帳と化した高校の授業ノートから始まって、亡くなる直前の83歳までずーーーっっと活躍され続けてたんだなあ・・・
絵本、パッケージ、表紙絵、ロゴデザインなどなど、ものすごい量の作品が並んでいるのですが、ひとつひとつどれを見てもわくわくするような面白さがあるのがすごい。
味があって、なおかつ常に洗練美があるのが和田作品の魅力だと感じていますが、単に上手いとか美しいというだけでなく、「面白がって作っているのが伝わってくる」というのがすばらしいところ。
技術やセンスはもちろんですが、最も偉大な才能というのは「面白がって作り続けられる」ことなんじゃないかなと感じた展覧会でした。
細部に魅力が息づく絵本『密林一きれいなひょうの話』
さて、展覧会の帰りにミュージアムショップを見るのも大好きなのですが、今回買った中で最も気に入ったのがこの絵本。
『密林一きれいなひょうの話』おはなし/工藤直子 え/和田誠(瑞雲舎,2018)
(画像は瑞雲舎ブログへのリンクです)
表紙には見覚えがありました。以前読んだことがあるはずなのですが、「たしか面白い本だったな」という漠然とした好印象以外、まったく内容を覚えていませんでした。工藤直子&和田誠であることもちっとも記憶にありませんでした。
元々は1975年に銀河社より刊行されたもので、その後絶版。瑞雲舎から2018年に同じ内容のまま復刊されたのだとのこと。(復刊ありがとう!すばらしい!)
改めて読んだら、「これは買わずに帰れない!」と思うような、とってもすてきな絵本でした。持ち帰ってから今まで何度も読み返しています。
あらすじ:なくなった斑点をさがすひょうの物語
ぼくは、ひょうです。
みてください。
ぼくのきれいなはんてんを。つやつや、ぴかぴか、すてきでしょう。
ぼく、とてもじまんなんです。ところが・・・・・・
ある日、ひょうが目を覚ますと自慢の斑点がない!残ったのはたった3枚。
ひょうはいそいで斑点をさがしに出かけますが、出会った動物たちは「それ、すてきだねえ。1まい、おくれよ」などと残りの斑点さえ持っていってしまいます。
そのうちに斑点が家出した理由がどうやらわかってきて、ひょうは泣きそうに。
でも、まんとひひがよい考えを思いついて・・・というお話。
最後はタイトルどおり、「みつりんいちきれいなひょう」の笑顔が見られます!
吟味された言葉と絶妙な絵
この絵本を読んで頭に浮かんだのは、「神は細部に宿る」という言葉。
体の模様がなくなってしまい探しに行くというストーリーラインは、絵本としてはわりとオーソドックスな類型におさまるもののように、私は思います。結末も、それ自体はめずらしい感じはしない。
描きようによっては、ずっと平凡な作品になったかもしれません。
でも、この絵本は惹きつけられる面白さ、心をつかまれるようなかわいらしさがあって、きらきら新鮮に映ります。
それを作り出しているのが細部なのだと思います。
最初の登場シーン、斑点を「すてきでしょう。ぼく、とてもじまんなんです。」というひょう。
いばったり鼻にかけたりするのとちがって、「純粋に斑点が好きで、気に入ってて、うれしい」という顔をしている。とってもかわいい。
大急ぎで斑点を探しにでかける、懸命な口元も緊張した背中もかわいい。
出会った動物たちへの、「ねえ わに、 ぼくの はんてん みなかった?」という声のかけ方もかわいい。
なけなしの斑点を「おくれよ」などと取ってしまう動物たちも、にこにこ顔やおっとりしたしゃべり方が、ちっともにくめない。
ひょうも斑点を取られて(あーらら、 たった 2まいになった)なんて、がっかりしながらものんきに受け入れてしまっている感じで、それもいとおしい。
文も絵も、細かいところにやさしさや素直さが表れていて、ひょうたちみんなを応援したくなります。この「みんな」には「家出した斑点」も含まれるんです。斑点まで含めて、みんなの「好きなこと」「やりたいこと」を大事にするまなざしがこの絵本にはあり、それがとっても美しい。
工藤直子さんの文章は、一字一句まで吟味されているにちがいない、声に出して読みたくなるリズムある文章。歌うように楽しく、読んではうっとり、読んではうっとりしてしまいます。
和田誠さんの絵は、ポスターや雑誌でよく見ているタッチとは少し違い、明るくすっきりした画面ながら、お話にふさわしい情緒とあたたかさのある絵に仕上がっています。
最後の見開きなんて、文も絵もあいまって、美しくて涙ぐんでしまうような場面です。
表紙と中身のギャップ
さて、これだけ細部まですばらしい絵本なのですが、ひとつ言いたいことが。
表紙のデザインが・・・これでいいの???
表紙(及びとびら)と中身の雰囲気がまるでちがいます。すごーく損をしているのではないでしょうか。
明るめの色調で描かれたかわいらしい絵とやさしいお話に対して、表紙が地味というか、硬いというか。
謎のオレンジと黒まだらのどアップ(読めばひょうの斑点とわかるのですが)。
タイトル字は緑色のゴシック体で「密林一」という、結構画数多くて難しい漢字(本文は全部ひらがななのに)。
なんだか堅苦しそう、古くさそう。伝統的な民話かな、厳しい自然を描いた実話かな、環境問題の話かな、などと重ための内容を想像してしまいます。
そもそも、私なんて
『密林―(みつりん ダッシュ)きれいなひょうの話』だと勘違いしていました。
『密林一(みつりんいち)きれいなひょうな話』だった💧
(やわらかく『もりでいちばん・・・』とかではだめだったんだろうか)
表紙の感じからは、とぼけた表情のあいくるしいひょうが出てくる楽しい話だなんて、想像つかないです。
お話の中心である「はんてん(斑点)」を全面に配したのは斬新だけど、せめてタイトルは雰囲気を合わせた描き文字にしたらよかったのに(和田誠さん得意なのに!)、などといろいろ考えてしまいました。
なお、表紙の本体デザインは銀河社の旧版から変えていないようですが、瑞雲舎の復刻版では帯にひょうの顔の絵がついていました。やはり出版社のほうでも表紙の印象を補おうと考えたのだろうなと思います。少しでも多くの人に、この本のよさを気づいてほしいですものね。
夏の終わりにすばらしい展覧会に行けて、新たなお気に入り絵本に出会えて、充実した休日でした。