中秋の名月
晴れました!
中秋の名月、くっきりと浮かんでいます。
昔から、夜が好きです。
夜は一日を静かにかみしめる時間で、張りつめた心をそっとほどいて、素直な自分に戻る時間だと思います。
そんなとき、見上げた空に月が浮かんでいると、何か応援されているような気持ちになります。
いいことがあった一日。
がんばった一日。
泣きそうだった一日。
人生の中で、何度も月を見上げたなあ。
それぞれのくらしをやさしく照らす 絵本『きょうはそらにまるいつき』
さて、こんな美しい満月のときに味わいたいのが、荒井良二さんの絵本『きょうはそらにまるいつき』(偕成社,2016)。
赤ちゃんとお母さんや、バレエ練習から帰る女の子、新しい運動靴を買った男の子。街の人々のくらしを、まるい月がやさしく照らします。
遠い遠い山の中の熊たち、遠い遠い海で跳ねるクジラにも、まるい月は光を落とします。
「きょうはそらにまるいつき」のフレーズを繰り返しながら、わずかな言葉で詩のように綴られた文章。
その中でも、息をのむような特に美しい表現が中盤と最後に現れます。あたたかな月の絵とともに、胸に響くその言葉を、ぜひ味わっていただきたいです。
絵は夜のお話ながら色彩豊かで、街の灯は煌々と明るく、行き交う人々も大勢、広場では祭りも始まるよう。
でも、にぎやかさとエネルギーを湛えながらも、それがやわらかい闇に包まれ、ひっそりと静かに届いてくる感じがします。
よく見ると、女の子が乗ったバスの窓から赤ちゃんとお母さんが見えたりと、「さっき出てきたあの人が、次のシーンのあそこに」という場面がいくつも。
同じ月の下、空間と時間のつながりが感じられます。
『あさになったのでまどをあけますよ』の姉妹作
本作に先立って、同作者の『あさになったのでまどをあけますよ』(偕成社,2011)という絵本が出版されています。『きょうはそらにまるいつき』は、その姉妹作といえる絵本です。
『あさになったのでまどをあけますよ』は色彩にあふれ、「荒井良二さんらしい」と思うような明るい光に満ちた作品。
「あさになったのでまどをあけますよ」のフレーズが繰り返されるリズミカルな文章で、変わらないいつもの街を「だからわたしはここがすき」と力強く謳います。喜びや生命力をいっぱいに感じられる絵本。
「朝」と「夜」、どちらかが好きな人、両方好きな人、それぞれあると思います。
私は断然『きょうはそらにまるいつき』が心になじむ感じがして、大好きです。
言葉の美しさがより際立っているというのもありますが、もともと夜が好きだということも影響していると思います。
もし『あさになったのでまどをあけますよ』がピンとこなかった人でも、『きょうはそらにまるいつき』は好きかもしれない。
例えば、朝の明るさに気後れしてしまうような人、「わたしはここがすき」と言えるような快活さが無い人にも、寄り添ってくれる本だと思うのです。
それぞれの夜を照らすあたたかなまるい月、ぜひ読んで味わっていただきたいです。