しかけ絵本のアトリエ

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ともにすごすやさしい時間:アーノルド・ローベル『ぼくのおじさん』

大切に読みたい ローベルの小さな絵本

あたたかくユーモアのあるお話と、クラシックで親しみやすい絵。アーノルド・ローベルの絵本は、私が小学生の頃から人気がありました。
特にがまくんとかえるくんの『ふたりはともだち』などを含む、文化出版局から出ているシリーズは、図書室でも常にどれかが貸し出し中。棚にはいつも隙間ができていました。

※画像はamazonへのリンクです

ふたりはともだち (ミセスこどもの本)

文化出版局のローベル絵本、装幀も好きです。
セピア系の色づかいで、本自体もやや小さめ。そのひかえめさがいとおしい。地味なのになぜか目に留まる確かな存在感があり、そっと大切に読みたくなります。

一番好きなローベル作品『ぼくのおじさん』はこんなお話

さて、今回ご紹介したいのは、その中でも一番好きな一冊。

アーノルド・ローベル作、三木卓訳『ぼくのおじさん

ぼくのおじさん (世界の傑作絵本A)

ローベルのお話にはちょっぴりの毒が含まれるものもあったりしますが、この本はとにかくやさしい、あたたかさいっぱいのお話。
挿絵のような小さめの絵は、やわらかい線でいきいきと愛らしく描かれていて、じっくり見ていたいすばらしさ。
20歳くらいの頃改めて読んで大好きになり、その時買った本を今もときどき読み返しています。

《あらすじ》
両親が乗った船が嵐で帰らず、ひとりになってしまった子象の「ぼく」。そこへ初めて会う年とったおじさんがやってきて、自分の家にひきとります。
いっしょに夜明けに向かってあいさつしたり、おじさんがつくったお話を聞いたり、特製の歌を歌ったり。さみしさを抱えながらも、ともに笑う素敵な日々を送ります。
そんなある日、電報が届いて・・・

ローベルの作品に多い、短いお話がつながった連作短編のような構成。それぞれのお話のタイトルはどれも「おじさん ~する」という形になっています。「おじさんドアをあける」から始まり、「おじさんドアをしめる」で完結します。

おじとおいのかけがえのない日々

両親がいない事情と、おじさんがとても年をとっている(幼い子象のおじにしてはずいぶんな年寄りです)こと。そのせいか、楽しい場面でもどこかさみしさがただよい、それゆえにふたりの日々のかけがえのなさが際立って感じられます。
文章自体は決して感傷的でなく、歯切れよく明るいのですが、読んでいると胸がじんわりあたたかくなり、涙がにじんできてしまいます。

おじさんは両親がいなくなった「ぼく」を直接的な言葉で励ましたり、なぐさめたりはしません。親代わりになろうともたぶんしていません。ただ、いっしょに楽しい時を過ごしてくれる。その感じがとてもいいなあと思います。

この良さは、「おじさん」ならではしれません。「おじさん」「おばさん」ってちょっと独特の立ち位置で、親でも友達でもない、ちょうどいい遠さでちょうどいい近さの大人。
現実でもそうですが、そういう存在がいてくれるのって子供にはすごくたのもしいことだと感じます。

なんとなく最初から、おじとおいの日々は期間限定なのではないかと予感させられるのですが、はたして最後には実際にそのとおりになります。うれしい知らせとともに!
別れの描き方、ぜひ読んで味わってほしい。もの足りないような淡々とした終わり方が、かえって余韻を残します。

子供はきっと子象の気持ちで読むでしょう。大人はどうでしょうか。子象の気持ちで読み始めても、いつかおじさんの気持ちになってしまうかもしれません。どちらの立場で読んでも、読み終わるころには大切な一冊になっているのではないでしょうか。


ところで、この記事を書こうとして調べた際、アーノルド・ローベルが1987年没と知りました。そんなに前に亡くなっていたとは!物語が全然古びていないことに驚きました。
今の子供たちにも大人たちにも、これからの子供たちにも。きっと読み継がれていく絵本だと思います。