しかけ絵本のアトリエ

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ずっと探していた言葉遊び絵本『それ ほんとう?』復刊でみつけました

昔読んだあの本、なんだっけ。
題名も作者も思い出せない…。
この本は、そんな状態のまま長い間探していました。

小学生の頃、学校の図書室で何度も借りて読んだ、ちょっと風変わりな絵本。
後で読みたくなったときには、本を特定するための情報をほとんど忘れてしまっていました。

その本に再会するまでのエピソードと、内容のご紹介です。

思い出せない、みつからない…再会は偶然

探していた本は、言葉遊び文字遊びの系統の絵本です。
例えば「あ」なら、頭に「あ」のつく言葉をずらーっと並べて1つのお話がつくられている。それが50音順に「わ」まで続きます。
同様の本だと『あいうえおうさま』が有名ですが、それより文章がずっと長くて内容もへんてこな本でした。
技法としては、「頭韻法」でいいのでしょうか?呼び方がわからず、人にも説明しづらくて、それも探しにくさの一因でした。

図書館や本屋で言葉遊び・文字遊び関連のコーナーを探したり、インターネットが普及してからは「あいうえお」「言葉遊び」「文字遊び」などのキーワードで検索したり、本の探偵さんに頼んだりしましたが、ずっとみつけられず。

記憶は断片的で、

「あ」は「あり」が出てきたな… 

お」は おいおい…おとこなき…

「た」は たいを…たらふく…たべた…

というような不正確な手がかりしかなく、それらの言葉で検索しても出てきませんでした。
あと覚えていたのは、オレンジ色の表紙のぼんやりしたイメージと、ランドセルに入らなかった細長いサイズ感のみ。

手がかりがないまま時は過ぎ、半ば諦めて忘れかけていたところ…
数年前、偶然みつけました!
都内へ遠出したとき、三省堂書店でやっていたフェア。
記憶にあったオレンジの表紙ではなかったけど、なんとなく目につき、手にとってみて中を開くと… わぁー、これだ!と心の中で叫びました。

タイトルはそれ ほんとう?

(画像はamazonへのリンクです)

それ ほんとう? (福音館創作童話シリーズ)

見れば「それ ほんとう?」のフレーズは、本文にもお話のしめくくりに繰り返し出てくるのですが、全然覚えていなかった!

そして著者は?

文・松岡享子、絵・長新太
なんと、まさかの有名どころ😲 こんなにみつけられなかったのが嘘みたい…

 

たぶん探し方も悪かったのだと思いますが、みつからなかった理由は2つありました。

①絶版になっていた

みつけたのは2010年に出た新装・復刻版でした。
出版社は以前の版と同じ福音館書店ですが、オレンジの表紙から白い表紙に、判型も変わってコンパクトになっていました。

私が子供の頃読んだのは1973年発行の旧版。出会った時点ですでに古い本だったようです。
長らく絶版で、本屋には並んでいなかったのだと思います。
図書館も古い本は書庫に入ってしまうので、みつからないわけです。

②「ことばあそび」等のキーワードがタイトルやシリーズ名に無い

これが多分重要です。シリーズ名が「福音館創作童話シリーズ」なのです。

今見ると福音館やamazonのサイトの商品説明にはかろうじて「言葉遊びの本」とありますが、本そのものの外観では一見して言葉遊びの本とはわかりません。
キャッチコピーがついた帯も無いし。

童話コーナーに並べられてしまうと、題名・作者名を知らずに探すのはちょっと無理でした。

フェアで目立つように飾られていたからこそ、幸運にもみつけることができました。
復刊してくださった福音館書店、フェアを開催してくださった三省堂書店に感謝。

 

やっと出会えた本、内容は?

さてさて、言葉遊びの本はほかにもある中、そんなにもこの本にこだわったのは、その特異さからです。

まず文章が長い!

「え」を例にします(試し読み公開されているページなのでまるごと引用します)。

えらいえきちょうさんが
えびちゃいろのえんびふくのえりに
えんどうまめのえりかざりをつけて
えんとつのうえで
えいびいしいのえほんをよんでいたら
えんそくからかえった
えんちょうせんせいが
えんじいろのえぷろんをつけて
えんがわにすわって
えびせんべいをたべながら
えすかれーたーにのっている
えすきもーのえをかきはじめた。
かきながら
「ええと
えのぐでいろをつけようかしら
それともいろえんぴつがいいかしら」といったら
えんとつのうえの
えきちょうさんが
えらくでかいこえで
「えのぐがええ!」と
えらそうにいったって。

それほんとう?


「え」はまだ短い方の例で2ページほどですが、「よ」だと6ページにもわたってお話が展開されます。
頭文字のしばりの中で、これだけ長いお話をつくっちゃうなんて!
全部ひらがなで分かち書きが無く(文節のスペースが無く)意味もとりにくいぶん、よけいに「たたみかける」感がすごいです。

そして読んでいただいてわかると思うのですが、内容がシュールで、独特のおかしさがあるのです。
絵も内容にぴったりの、らくがき風のユーモラスな絵。

また、あまり子供用の易しい言葉におさめず、「いきりたった」とか「にゅうじゃくなやつ」とか、果敢に様々な語彙を入れ込んでいるもの魅力
難しい言葉もあれば、辛辣な言葉も。

一般的に「子供にわかる平易な言葉で」が絵本のセオリーでしょうけど、聞き慣れない言葉にどんどん出会う刺激も、小学生当時の私には快い体験でした。
そういえば「いっちょうら」ってこの本で覚えたな…

まえがきやあとがき、解説もなく、いきなり
 あめりかうまれのありのありすさんが…」と始まり、
」の項の「それほんとう?」であっさり終わる、そっけなさもこの本らしい。

 

技巧がすばらしくユーモアたっぷり。読み応えもたっぷり。
大人が読んでも面白い…えーと、
おとなもおどろくおもしろさ、おかしなおはなしのおんぱれーど。
25年越しに手に入れてよかった!
大満足の一冊です。