金色の風景の中を
家にいてばかりで、気持ちが鬱屈してきてしまって。
10月の始め、久々のお休みは、美術を見たいな。
何か美しいものを、心が解放されるものを!
そう思って出かけました。
ウイルス禍で遠出は控える日々ですが、幸いなことに、私の住む新潟県内でも興味深い展覧会がいくつも開催されています。
これから観に行くのは、日本の風景を描いたはり絵。今は前期の【夏・秋編】なので、現実の季節ともリンクしそうです。
期待に胸をふくらませながら、空いた電車の窓から外を眺めると、田んぼが視界いっぱいに広がっています。
「ああ、近所以外の景色を見るのはしばらくぶりだなあ」としみじみ。
刈り取られた田、まだ稲穂が残る田。紫や白の草花も、繁った雑草も、秋の金色の光の中では全てが美しく映ります。
私には一番好きな季節。
新発田駅から、城下町の風情ある道を歩いて15分。
7月に「みんなのリサとガスパール展」で初めて訪れたのですが、その時次回展示として案内されていたのが、今回の展示。
『光と風の詩(うた)生誕100年記念 ー四季の彩ー
はり絵画家 内田正泰展』
【前期 夏・秋編】8月24日(火)〜10月24日(日)/【後期 冬・春編】10月30日(土)〜2022年1月23日(日)
展覧会情報のリンクを貼りたいのですが、公式情報?のページがリンク禁止のよう。
パンフレットの写真を載せるのも問題あるかもしれないので、内田正泰さんのオフィシャルサイトを貼っておきますね。
「あのポストカードの画家」
私にとって内田正泰さんは「東京の八重洲ブックセンターで売っているポストカードの画家」でした。
もう20年くらい前ですが、関東に住んでいた頃ときどき東京に出かけていて、八重洲ブックセンターはよく寄る場所でした。
そこでたまたまみつけたのが、鮮やかな色彩の、日本の風景を描いたポストカード。
四季折々、たくさんの種類が並んでいました。
初めて見たときに心惹かれて数枚買いましたが、その後も東京に行くと「ついでに八重洲ブックセンターに足をのばして、あのポストカードのシリーズを買おうかな」と、数年の間たびたび買い足していました。
(昔のことなので、今は売っているかどうかわかりません)
最近は東京駅近くに行くことも減っていますが、今もリビングの壁にはよく内田さんのポストカードを飾っています。
入口のビデオに釘づけ
そういうわけでポストカードの絵に親しんでいたものの、内田正泰さんご自身のことはほぼ何の知識もありませんでした。
書店で画集をみかけたことがあり、あの絵は「はり絵」なんだなと知ったくらい。
すでに亡くなられたということも、この展覧会の案内で初めて知りました。
勝手に、もの静かな男性をイメージしていました。
さて、いざ美術展に入場。
入ってすぐのところで、ビデオ上映をしていました。
私は展覧会のビデオ上映は「時間が余ったら見よう」と考えることが多く、たいていはすぐに展示品の鑑賞に移ります。
今回もモニターを横目で見つつ、通り過ぎようとしましたが・・・
あれ?このバンダナ姿で身振り手振りしながら、
大いに語っているおじいちゃんが内田さん?
晩年の、90歳を超えたくらいの時ではないかと思いますが、そこにはイメージと違う饒舌なご老人の姿が。
その語りの勢いに気をひかれ、ついモニターに見入ってしまいました。
(次の作品の予定について訊かれ)「胸にぐーっと来た時に描くからね、今訊かれてもわかんないよ」
「自然が先生なんだ。自然は嘘をつかないからね、人間については疑ってかかっちゃうけど(にやり)」
(どの作品が一番思い入れがあるか?訊かれ)「どれが一番って、みんな『いいなー』と思って描いてるからねえー、・・・(作品を出して)これなんかいいね。(別の作品を出して)これもいいね、ほら。(別の作品を出して)これもいいな!この絵のおばあさんはね・・・(続く)」
かつてデザイナーをしていた時の仕事を「生活のためだった」としながらも、作品を見せるとなると
「これ昔のデザイン、ほら、なかなかいいデザインだよ」
(※記憶で書いているので、正確ではありません)
絵に対してまっすぐで、ご自身の画業を愛していて、何も余計なものがなく純粋で・・・
うらやましいというか、圧倒されるというか、あんまり天晴れなお姿に見惚れてしまい、あたたかい笑いがこみあげてきました。
と、思ったら涙もぽろぽろと。
絵に対する姿勢が素晴らしくって、すっかり心打たれてしまいました。
まだビデオを見ただけなのに(^^;)
鮮やかでハッとする景色
原画を目にしたとき、それまで見ていた印刷物や写真の印象とさほど変わらないこともあれば、大きく違うこともあります。
内田さんの絵は、後者でした。
どの絵の前に立っても、ハッとするようなインパクトを感じました。
思っていたよりもずっと深くて強い。
印刷物ではわからなかった紙の質感、わずかな凹凸、破いた紙の縁の不規則なギザギザ。情報量が、迫力が全然違う。
内田さんのはり絵は日本の田舎の風景を描いていることが多く、今まで、ひと言で表すなら「郷愁」というようなイメージをもっていました。
でも、目の前の作品は「郷愁」なんていうぼんやりしたおとなしいものではないな。
もっと生き生きしていて、光と風の瞬間をするどく切り取って閉じ込めているような。
「鮮烈」、「清新」。そんな言葉が浮かびました。
観ていると目が覚めて、胸が高鳴るような絵。
色のコントラストがとても鮮やかで、構図はすっきりと決まっていて、迷いがない。
じっとみつめたくなるし、何度も観たくなる絵でした。
はり絵は、和紙ではなく洋紙を手でちぎって作っているとのこと。
ビデオには制作の様子も映されていたのですが、既製の紙でいいものが無ければ自身でもみ紙したり、絵の具を塗りこんだりして素材から作っておられました。
そうした加工を施した紙が豊かな質感や陰影を表現している一方、何も手を加えていないであろう素のままの紙も、絵の中では素晴らしい表情をもっているのが不思議でした。
ただの緑の紙が光をたたえる水面に見えたり、ただの藍色の紙が宵に浮かびあがる山影に見えたり。
記念に、やはりポストカードを
小さな記念館ですので作品の点数は多くなかったのですが、たっぷりと時間をかけ堪能しました。
帰りにはショップコーナーで画集を1冊と、またポストカードを。
(画像はamazonへのリンクです)
ポストカードは、展示されていた絵と同じものを何枚か購入しました。
実物を観た後だと、印刷のポストカードからでも、あの質感や凹凸も思い出すことができる。やっぱり展覧会で買うのは特別です。
特に気に入ったのは、黄金色の田んぼが連なる風景を描いた1枚。
来るときの車窓の風景と重なり、今日の思い出にはぴったりでした。
後期展示は【冬・春編】なので、ぜひまた来たいと思っています。
ウイルス禍で不自由な中、こういった美術が見られること、とってもありがたいです。
不要不急という言葉に苦しめられたりもしましたが・・・芸術やエンターテインメントって大切!と改めて感じました。