おなじみ『うっかりペネロペ』のしかけえほんシリーズ。
「プルタブしかけ」もしくは「つまみひきしかけ」などといわれる、タブを引っ張って動かすタイプのしかけ絵本です。
アニメやグッズでも人気のペネロペですので、すでに親しんでいらっしゃる方も多いと思いますが、「しかけ絵本はまだ」という方に向けてご紹介します。
ペネロペファンだけでなく、しかけ絵本ファンにもおすすめしたい、よくできた絵本。
市販のプルタブしかけ絵本の中では、このペネロペシリーズが私のイチオシです!
- 『うっかりペネロペ』について
- 読む前のペネロペ絵本への思い込み*(とばしたい方は次の項へ)
- 読む前のプルタブしかけへの印象*(とばしたい方は次の項へ)
- 思いがけないハイクオリティ
- 実は「しかけえほん」が原点
- しかけえほんシリーズ、どれを選んだら?
- おわりに
記事がちょっと長めです。*印をつけた項は個人的な話なので、興味のない方は適宜とばしてくださいね。
『うっかりペネロペ』について
『うっかりペネロペ』は、フランス在住のゲオルグ・ハレンスレーベン(絵)、アン・グッドマン(作)夫妻がつくっている小さい子向けの絵本シリーズ。
青いコアラの女の子、”うっかりや”のペネロペは3歳。
同じゲオルグ&アンの『リサとガスパール』よりももっと幼い設定です。
小さなペネロペにとっては、毎日が発見でいっぱい。
ときどきうっかり失敗しながらも、元気に暮らす様子をほほえましく描いた絵本です。
「しかけえほん」と「おはなしえほん」のシリーズ、それ以外にもたくさんの絵本が出ています。
読む前のペネロペ絵本への思い込み*(とばしたい方は次の項へ)
最初に書いたように、ペネロペはアニメにもなっているし、キャラクターグッズもたくさん出ています。
それだけ人気者なのですが、それが逆に、ちょっと先入観を与えてしまう面もあるのではないか・・・なんて思います。
「人気キャラクターのしかけ絵本?かわいらしさがメインで、しかけはたいしたことないのでは」と。
というのは、実は私がそうだったのです。
ゲオルグ・ハレンスレーベンの絵は大好きで、展覧会を観に行ったりカレンダーやポストカードを飾ったり、リサとガスパールのぬいぐるみを持っていたりするくらいだったのですが、なぜか絵本はあまり読んでいませんでした。
ペネロペに関しても、しかけ絵本の存在を知ったのはアニメを見た後でした(この日本製アニメはびっくりするほどよくできていて、すっかりファンになりました)。
すでに人気キャラクターになっていて、グッズもたくさん。
それで勘違いしていました。
しかけ絵本は「人気を受けて派生的につくられたもの」だと。
もっといえば、「キャラクター設定と絵だけ借りて、原作者とは別の人がつくっているのではないか」とさえ思っていました。
そんな思い込みがあったので、絵本としての実力をあまり期待していなかったのです。
読む前のプルタブしかけへの印象*(とばしたい方は次の項へ)
期待していなかった事情としてはもう1つあって、私はその頃まで、プルタブしかけがそれほど好きでなかったのです。
私が子供の頃もプルタブしかけ絵本はありましたが、下記のような点がイマイチだと思っていました。
- 単純なしかけが多く、タブを引っ張らなくても動きの予想がつく
- スムーズに動かず、壊れやすく、タブを引くことに快感がない
- 引っ張ったら戻さなければいけないのがわずらわしい
そんなこともあり、プルタブしかけ中心のペネロペしかけ絵本には、やっぱり期待薄でした。
思いがけないハイクオリティ
いざ、手にとってみると・・・いやあびっくり!
とっても面白い!よくできている!
どんなふうにすごいかというと・・・
ペネロペといっしょに体験する感覚
まず感じたのは、しかけとストーリーがぴったりマッチして生まれる、相乗効果的な楽しさ。
プルタブしかけの特徴は、「自分でタブを引っ張って動かす」ことです。
ページをめくる瞬間に自動的に立ち上がるポップアップと違い、一旦絵を見てから自分のタイミングでしかけを動かし、変化を楽しむ。
それが幼いペネロペのお話にすごく合っています。
プルタブを動かすことについて、この絵本では「つまみをひっぱって ペネロペを てつだってあげてね」という設定です。
読む人も「てつだう」ことを通してお話に参加するのです。
「たまごを わります」うまくできた!「ボールにいれるのは こむぎこ」あれ、ちょっと失敗?と、いっしょに体験する感覚になります(『ペネロペ チョコレートケーキをつくる』より)。
(このシーンは絵本ナビ ↓↓ でバーチャル動画を見られます。とてもかわいいです😍)
3歳のペネロペが日常の1つ1つを新鮮に体験するように、読者もしかけを動かす1つ1つを新鮮に体験する。
しかけの特性をストーリーに生かした、わくわくするしかけ絵本になっています。
意外性のある多彩なしかけ
しかけのアイディアもユニークで多彩。
予想外の展開があったり、一度に2~3ヶ所動いたり。
中にはシンプルなしかけもありますが、ストーリー的な面白さがあったり、動きがかわいらしかったりと、惹きつけるものになっています。
特にペネロペの”うっかりや”ぶりを表す、まちがいや失敗のしかけ。
元気に失敗するのがかわいくって、面白くって、意表をつかれて笑ってしまいます。
技術的にもすぐれる
やや複雑なプルタブしかけにしては、かなり動きがスムーズです(ときどきひっかかる・壊れやすい箇所もありますが、それでもほかの多くのプルタブ絵本と比べてだいぶ動かしやすいです)。
のちにしかけ絵本をつくるようになってわかったのですが、数ヶ所同時に動かすしかけは、動作が重くなったり、ひっかかったりしやすいのです。
紙質と設計の両方が大事ですが、ペネロペのしかけはその点、よくできています。
プルタブしかけの宿命として、タブを引っ張ったら元に戻す必要があり、その戻す方がより動かしにくいものなのですが、ペネロペしかけはそれも比較的スムーズ。
ストレス感は少なめです。
プルタブしかけでこんなに面白い絵本があるんだ!というのは、私にとって発見でした。
実は「しかけえほん」が原点
すばらしさに驚いて調べたら、私の勘違いがわかりました。
ペネロペのしかけ絵本は人気を受けて派生的にできたのではなく、むしろ原点だったのです。
ペネロペのそもそものスタートは「しかけえほん」。「おはなしえほん」より先でした。
アンとゲオルグが編集者に持っていった初めての「ペネロペ」が、しかけ絵本4冊のラフだったそうです。
2003年に実際にフランスで出版されたのも、最初の4冊『ペネロペ まきばへいく』『ペネロペ ゆきあそびをする』『ペネロペ ようちえんへいく』『おやすみなさい、ペネロペ』(邦題にしています)はすべてしかけ絵本。(日本語訳は翌2004年)
しかけの設計も、ゲオルグ自身が試作を繰り返して動きや効果を確認しながらつくりあげているとのこと。
幼い子どもたちが楽しめるように原作者が心をこめてつくった、工夫いっぱいのしかけ絵本。
どうりですばらしいわけだ!
しかけえほんシリーズ、どれを選んだら?
ペネロペのしかけえほんシリーズは、現在13冊出ています。
↓↓ 詳しくは岩崎書店のサイトでご確認ください
http://www.iwasaki-penelope.com/ehon/shikake/
『ペネロペ まきばへいく』
『ペネロペ ゆきあそびをする』●
『ペネロペ ようちえんへいく』●
『おやすみなさい、ペネロペ』
『メリークリスマス、ペネロペ!』☆●
『ペネロペ うみであそぶ』●
『ドアをしめてね、ペネロペ』
『ペネロペ ルーブルびじゅつかんにいく』☆
『ペネロペ パリへいく』☆
『ペネロペ スポーツをする』
『ペネロペ チョコレートケーキをつくる』●
『ハッピーバースデー、ペネロペ!』☆
『ペネロペ びょういんへいく』
(☆は大判絵本です)
たくさん出ていますね!
私が持っているのは5冊のみ(●で示しました)ですが、ほかも全部読んだことはあります。
どれがいいか迷っている方は、基本的にはテーマの好みでいいと思います。
どれもが楽しく質が高く、ハズレはないと感じるので。
あえて違いをいうと、『まきばへいく』はほかに比べて、しかけがややシンプルかなという気がします。
私の好みでは、やはり持っている(●をつけた)5冊が特に気に入っています。
1番をあげるなら、『ペネロペ ゆきあそびをする』。
(同タイトルの「おはなしえほん」も出ているのでお間違えないよう)
雪だるまやスキーと、遊びシーンのバリエーションが多いのも楽しいポイントですが、特にいいのはユーモアがきいているところ。
そりですべろうとして×××、というところは思わず噴き出しました。必見です。
最後のしかけも大好き!
パーツが〈タブを引いた方向に引いただけ動く〉という、プルタブしかけで最もシンプルなものなのですが、「あっ!」と思わせてくれる意外性があるのです。
単純なしかけでも工夫次第でこんなに面白くなるんだな!と目を開かされました。
おわりに
ペネロペしかけ絵本の魅力についてご紹介しました。
私はこのシリーズでプルタブのよさを見直して、自分でもオリジナルのプルタブしかけ絵本を2冊つくるまでになりました。
小さな子どもはもちろん、元子どものみなさんにも読んでほしい。
かわいいけれどかわいいだけじゃない、充実のしかけ絵本です。